2004年3月31日水曜日

月之輪涌泉名品

涌泉鉢が手に入りました 今月はついていましたね、一ヶ月の間に、このようなレベルの高い二鉢もの作品に出会えるなんて

そんな訳でご機嫌です、この際、涌く泉鉢の魅了を詳しく解説してみましょう
まずは今回入手した染付長方鉢からです

風景画の点景としての人物でなく、人物そのものがテーマになっているのは
涌泉といえど極めて珍しい作品です


間口11.2×奥行9.5×高さ4cm

どじょうを獲っているのでしよう、オヤジの顔がユーモラスに描かれているのが印象的です
二人の動作の描写も的確で緊張感があります


こちらの面は釣り人 、ピンと伸びた腕から竹竿が更に伸び、釣り糸の先は水面に吸い込まれています
題材は庶民的ですが、リアルで格調のある絵です

釣り人の足元を見てください
右足を左足の上に組んだところや左足に履いた草履まで丹念に描いていますね

また足元の岸辺や水面の表情など、涌泉の驚異的な描写力にも
改めて感動させられます


岸に繋いだ漁師舟


松と岸辺の描写


月之輪涌泉と釘彫り落款
水穴の付近の色からも使い込みの古さがわかります


涌泉は自らも盆栽を愛好したと伝えられます
水はけを考慮した五ツ穴からも、そのことがうかがえます


涌く泉のボディーの作り方には大まかに三通りあるようです

丸型はロクロ
角型はタタラと彫り込みです

この作品は彫り込み法
大まかに作ったボディーを彫り込みにより最終仕上げをする方法です
撫角の鉢に多く使われています

内側に彫りこみの際のヘラ跡が残っているのが
かえって作者の手の温もりを感じさせてくれます


落款の拡大図


近年涌泉の贋物が横行していますが
字体などはそっくり真似していて、落款優先の識別はアブナイ

あくまで涌泉の作風、とくに絵の力量から鑑定すべきです

この項続きます

2004年3月22日月曜日

土佐水木荒治療

教材の土佐水木は、すでに完成されていた盆栽でしたが
幹や枝の骨格部分をさらに太らせ、スケールの大きな本格的小品盆栽とするために
大きめの仕立て鉢に入れて培養していたものです

骨格の充実という目的はほぼ達せられたので、ここで化粧に移し
再び盆栽としての道を歩むことになります


仕立て鉢の中にぎっしりと廻った根
この根の量なら幹や枝は太りますね


用意した化粧鉢、この鉢に合わせ根を切らねばなりません
こんなとき、怖くなって大きめの化粧鉢を選びがちですが、勇気をもってやってください

一気にピッタリの鉢に入れてしまいましょう
ここで大きめの鉢を選んでも、いずれはやらねばならない手術です(一発で決めた方がイイ)


まず底部を切り出しナイフや小型の包丁で根を切ります
竹箸でほぐしていたのでは仕事が進みません


根の周囲も鉢の大きさに合わせザクザクとナイフを入れます
細根が充実していてけっこう力が要ります


あらかた入りそうな大きさになりましたね
さて、これからが大切です


竹箸で土をほぐしにかかります
まず表面から始め、根の張りを確かめます


根元の表土はパンパンに固まっているので、丁寧にほぐします
このままでは根元に水がしみ込んでいきません(重要)


底部を攻めます
まだ粗い根が見えます

太めの根は遠慮なく追い込みます


こんな感じです


しっかり針金で固定してから用土を入れます(赤玉土8:桐生砂2)
樹がぐらつくと根付きが悪い


根をあれだけ追い込んだのですから、枝も切り込みます
芽当たりのあるところまで、バッサリといきます

根を追い込んで枝はそのままではいけません
根と枝の量のバランスが崩れます

ちょっとばかり荒治療でしたね
でも一ヶ月もすれば手術の後遺症も癒え、元気になるでしょう

小品盆栽では、鉢をゆるめ数年遊ばせ、再び躾をし直すことが必要なときがあります

1 幹枝を太らせさらに迫力ある骨格を作りたいとき
2 衰弱しかかったものを元気にしたい場合
3 大きな傷を肉巻きさせたい場合

※大きめの鉢に入れるときには、ごろ土をタップリ使い水はけよく植えること

2004年3月21日日曜日

根を作る

彼岸に入ったというのに昨日の寒さ、あれはないよ
みなさんもそう感じたでしょ、みぞれ交じりが降るなんて

今日はうってかわって暖かい陽気
ゲンキンなもので、ボヤクどころか喜び勇んで一目散に植替えに突っ走りーッ

次々と盆栽を植え替えていて、じつに印象的なことは

盆栽の基本が根にあることは、改めていうまでもないことですが
その根の状態が、一鉢一鉢によってイイのや悪いの、それぞれ様々なのです

手早く作業しながらでも、ポイントだけは押さえていかねばなりません
その悪い一例だけでも、皆様にご紹介します


かなりの持ち込み品なのに、鉢から抜いてみるとまるで細根がありません
真下のゴボウ根と数本の強い根を残すと、まるでガラガラになってしまう状態です


この楓盆栽が誕生した早い時期(おそらく10年くらい前)に行うべき作業
そうです、真下のゴボウ根を処理すること、これがなされていないのです

自然界においてはゴボウ根(直根)は必要です
これがないと強い風雨の圧力に負けて倒れてしまうからです

しかし、盆栽にとっては無用です
思い切り追い込みましょう

他の強い根も追い込みます
追い込み(切り込み)するのは枝だけではありませんよ

弱った土を替えてやることとならんで
追い込みにより、根の分岐を促し細根を多く出させることが植替えの主な目的です

イイ盆栽とは、形だけでなく、普段は目に触れない鉢の中の根にも心配りがされている盆栽です

2004年3月20日土曜日

雄山最初期 2

雄山の最初期の落款

この落款には雄山自身にしかわからない、ある暗号めいた仕掛けがあるらしいのです

雄という文字を四角で囲っていますが、向かって左の縦の線が二重になっていますね
そして、その外側の線が上の辺と明らかに隙間をとって引かれています

この隙間が雄山にしかわからない暗号であるらしく
それが制作年代を表す印しだとも聞いています

年代別に落款を変えている雄山のことです
有り得ることです


足の形や文様も後世の作品の源流になっていますね
このスタイルは発展した姿で現在の作品にも継続されています


押し底スタイルの鉢底
鉢の底面が辺の部分を残して一段下がっています

スタイルを押し底といいます
この形式も雄山得意のスタイルとして定着しています


正面の絵付けの拡大図
雄山の絵の特色は、何よりも筆のタッチが迅速で巧妙なことです

この最初期の絵も、装飾過多に陥らない抑制の効いたみごとなものです
岸辺に立つ人物の背中には品格と威厳さえ感じられます

樹木と舟の描写がじつに巧みです


裏正面の絵付け拡大図
橋が二本の単純な線だけで描かれていますね

その簡素なで適切な表現は雄山の筆力を際立たせています
岸辺の樹木の描写もすてきです


側面の絵付け拡大図
人物に動きがあります、現在の作品に受け継がれている特長です


側面の絵付け拡大図
手前の岸辺の描写が巧みです

2004年3月19日金曜日

雄山最初期

藤掛雄山の最初期の作品の売り物に出会いました
残念ながら隅にニューのある傷ものでした

しかし、出来がいいのとめったにないごく初期の落款のものでしたから
貴重な資料として皆さんにお見せするために買い求めました

雄山は昭和47年から小鉢の製作を始めたといわれていますが

この落款の作品は昭和49年のものとされています

雄山自身が制作年代が識別できるように、その落款を変えています

「雄」の文字を四角で囲ったものー昭和49年
「雄山」の文字を四角で一重に囲ったものー昭和52年
「雄山」の文字を四角で二重に囲ったものー昭和54年
「雄山」ー昭和60年
「雄山造」ー昭和62年

と年譜に有ります

ですから、この落款はまさに最古の印しになるわけで
これらの落款を頼りに雄山鉢を詳しく検証すると、作風の一貫性と微妙な変遷も辿ることが出来ます

普通、作品のの制作年代は作風から推測するほかはないのですが
雄山の場合は時代区分をはっきりと判定できるのです


藤掛雄山作 間口9.5×7.5×3.3cm

この時期からボディーは安定していて、雄山鉢作家としての非凡さ表れています
足の形状も後世の作品の原形がうかがえます

後世の手馴れた感じよりも素朴さが感じられる絵付け
しかし、繊細な筆のタッチは雄山生来の資質であることが証明されています


裏正面
面白い事に二面とも構図の比重が左に寄っています
つまり右半面に余白をとっているのです

これは後世の作品には見られないことです
その後の作品の山水画は、表裏が必ず反対向きの構図になっています

これは面白い発見です!
同じ向き(構図)の絵を両面に描いているのは何故でしょう、疑問が残ります




実に安定した美が感じられるボディーです
それにしても、この作品が鉢を製作し始めてわずか数年の作品とは思えませんね

やはり、本人の努力だけでなく、抜群の才能にも恵まれていたのでしょう
驚きです

この項明日へ続く

2004年3月18日木曜日

植替え後の管理

昨日は強い風が吹き荒れました
植替え直後の盆栽たちにとっては風は大敵

とにかく水、水、水ッーです

強い風は盆栽の鉢の中はだけでなく、枝や葉の水分を急激に奪い去るので
鉢の中だけ観察していると失敗します

葉水(はみず)が一番です

人間だって強い風に当たると唇などがカサカサになりますね
植物だって同じです、急性の脱水症状になってしまいます

植替え後の管理

置き場所は原則として半日陰
しかし、元気のいいものはいきなり日当たりに出した方がいいでしょう
鉢が温まり根が早く活動を始めるし、芽出しもいいからです

強い風を避けられる場所
これは大切なことです

鉢の中は中加減の湿り気を保つようにします
乾燥はもちろん、水のやりすぎは根の活動開始を遅らせます

葉水はマメにやりましょう


植替え後に乾燥を防ぐため
また水やりの際に表土が流れないように、水苔で保護します


水苔を細かく切り、水に浸すと使いやすい


新芽が伸びてきました
柔らかい芽は乾燥に弱いですから大切にしてやりましょう

2004年3月17日水曜日

苔州の魅力

市川苔州の全盛期は、昭和初期の約10年間くらいだったといわれています
それは多くの作品を考察してみると理解できます

つまり、全盛期と思われる作風の似た作品群が存在するからです
その作品群の代表的な釉薬に小豆釉があり

ご紹介する鉄鉢式(てっぱつしき)もその時代の代表的な形です


市川苔州作 小豆釉鉄鉢式丸型樹盆(あずきゆうてっぱしきたまるがたじゅぼん)

炎のいたずらにより微妙な窯変が見られます
胴を斜めに横切る雲のようです


こちらの角度にも見えます


裏正面には窯変がありませんね


窯変の部分は炎が強く当たったのでしょうか、釉薬がドロッと層になって流れています
この鉢の見どころです


苔州独特の鉄分の多い土目
釉薬の色彩は土に含まれる成分の影響を強く受けます


土の拡大図
黒い粒々が鉄分です

この鉄分の影響を受けて苔州の釉薬は渋い味わいがあるのです

2004年3月16日火曜日

イボタ植替え

お気に入りの樹高わずか4cmの超ミニ
イボタの植替え風景をご紹介します


鉢がちょっと大き目ですが、うまい鉢が見つかりません
しかし、今年は植替え時期です


ご覧のように、根が廻っていっぱいです


根と土をほぐす手順を覚えてください
第一番目は足元を中心にし、根張りを確かめながら上根(うわね)をほぐします

もぐっている根張りを確かめ、そこを基準にして残す根の量(間口・奥行き・厚さ)を決めます


残す根の量に注意しながら根の底を攻めます
この段階も大切です


根の底を攻めています
根張りをよくするためには、この作業が欠かせません


植え付け段階
ごろ土を忘れずに


植え付け位置の確認は慎重に


針金でしっかり固定
太目の針金を使っていますね、ここに注目


しっかり固定しました


細かめの植え土
隙間のないように竹箸で土を押し込む感じ


完了
表面は水苔で保護します

根付くまでの約一ヶ月間、水を忘れないように
それと、冷たく乾燥した風は禁物です