2008年11月27日木曜日

東福寺・贋物鑑定法

盆栽界でもっとも名の知られた鉢作家といえば「平安東福寺」でしょうが
同時に、これほど贋物が出回っている作家もいないでしょう

ながい間この業界に生きてくると、この東福寺の贋物にまつわる話は
枚挙にいとまがないほどたくさん見てきました

プロの場合、贋物を掴めば「あいつは目が利かない」と笑われるのおちですから
やせ我慢している姿が喜劇的で、「もっと修行をつめよ」などと先輩にからかわれたりして一件落着ですが

愛好家が大枚を出して求めた東福寺が「贋物」だった場合は、非常に悲しく悔しい出来事です
たちまち人間不信(盆栽業者)に陥って、盆栽がいやになってしまう人さえいます

ともかく売り手である盆栽業者は、きちっとモラルを守り鑑識眼の研磨に励めねば、まさしく業界の恥となります
そして、買い手であるみなさんも自衛のための勉強を怠ってはなりませんね


平安東福寺・緑釉外縁輪花 間口33×奥行33×高さ7.3cm

20年ほど前、ごく親しい愛好家のUさんが「こんなの見つけたよ、安いし使い鉢にいいから買ってきたよ」
と見せてくれた東福寺の贋物、その後その愛好家ずーっと使い込んでいたもの
先日その方からある名品を譲っていただいたおりに、サービスにいただいてきたんです(笑)

東福寺の贋物としては格別に大きな鉢です

所見1

東福寺の緑釉はもっとも代表的で定評のある釉薬
この贋物の釉(クスリ)にはホンモノのような深みと光沢がなく、薄っぺらな感じがします


所見2

6弁の輪花形の鉢は珍しい、ただし東福寺は形の多彩さでも知られた作家なので
「この形の東福寺はありえない」と断定はできませんからご注意

形よりもむしろ水穴に違和感があるのです

三箇所の小さな水穴は、針金を通して木を固定するための用途も意識したもの、と推定されます
東福寺鉢には、このように意識的に固定用の穴を開けた鉢は、あまり見かけた記憶はありません


所見3

足にも力が感じられませんね

東福寺の仕事は手早い一発仕上げが特徴
ホンモノであればもっと力強い感覚が伝わってくるはずです


所見4

ホンモノ東福寺の緑釉はもっと鮮やかで深みと光沢があります
この鉢の真贋判定の最大のポイントは、この釉薬だといえるでしょう


所見5

この釘彫の書き落款は、かなりホンモノに似ています
しかし、ホンモノにある筆致の勢いが感じられませんね、あまり落款を当てにしてはいけませんよ

そして土目も東福寺鉢にはみられない質のものです

以上思いついた所見をいくつかあげてみました

鉢の形や大小に拘らず、他の東福寺鉢の鑑定に役立つ急所です
総合的な鑑定眼を養ってニセモノに引っかからないように、勉強してくださいね

最後になりましたが、今日ご紹介した鉢は「二代目東福寺」でもありません
東福寺鉢の判定には、ニセモノを「二代目東福寺」と言いくるめる「便利な逃げ道」がよく使われますが

これとて悪質であることにはかわりません
初代は水野喜三郎、二代は水野勇の作でなくてはならないのです

その他の作品は、すべて贋物(コピー)なのです
いいですか、二代目という「逃げ口上」にも引っかかってはいけませんよ

では

2008年11月26日水曜日

楓の傷口治癒


1  2  3  

お気に入りの楓寄せ植えの、主幹の左側に立っている副幹の下から三分の二くらいの高さに
横幅2cm、縦3cmほどの大きな傷がありました

かなり以前に、旧の持ち主がそそうして幹が半分折れかかた時に作ってしまった傷で
直径3cmの幹に幅2cm、患部は凹んで木質部が露出しており、私もその治療方法でちょっと迷ってはいたのです

楓は強壮な性質で肉巻きは早い方ですが、枝先を柔らかく保つためにはあまり肥料はやりたくないし
かといって自然治癒では時間がかかるし・・・



傷口はおおよそ白線で囲んだくらいでした
そこで一昨年の春、古い傷口を新たに削り直してカットパスターをたっぷり塗って保護しました

傷口は新しいほど肉巻きが早く、古傷になるとほどに肉巻きの速度が遅くなってきます
そこで、古い傷口を形成層が見えるまで削り込んで、傷口に刺激を与えてやるんです



新しくなった傷口が盛り上がって、旺盛に肉巻きが促進された様子がおわかりですね
2年の間に、中心にあと数ミリを残してみごとに埋まりましたよ



まだカットパスターの残りかすが取りきれません
冬季にゆっくりと掃除をするつもりです

ここで注意点を一つ

治癒した箇所にいつまでもカットパスターを貼っておいてはいけません
肉巻きのいい樹種では、肉が巻きすぎてコブになってしまうこともあるくらいです

治癒した傷のカットパスターは早めに取り除いて
まだ肉の巻かない箇所だけ塗り直すなどしてあげましょう

2008年11月24日月曜日

極性の山もみじ

商売で盆栽と接している盆栽屋にとっても、とくに好きな樹種は必ずあるもので
また樹形やサイズによる好みもあります

商売とはいえ、自分の好みの樹種や樹形の盆栽に出会ったときは
損得を離れて、それは嬉しいものです(これがほんとの役どく)

今日ご紹介するのは、先日巡り合った山もみじのミニサイズ
根張りのよさや枝先の細かさ、そして何よりもスケールの大きな「構え」のよさに一目で惹かれました



「この山もみじ、いくら?」と聞くと、ふだんは躊躇なく値段をいう同業者が
苦しそうな表情でやや一瞬のあいだ迷っているようすでした

私は、彼が樹冠部の未完成の評価をどれくらい割り引いたら適切なのか
それを迷っていると即断しました

そこで、「頭がなー、ちょっと時間がかかるよなー」
とすかさず、さりげないかく乱の先制攻撃を一発(値切りのテクニック・超上級編)

値段を聞いてしまってからでは値切りのパンチは効きにくいもの
相手の顔色を見ながら、すばやく、そしてさりげなく放つ先制の攻撃は効果抜群です

じっさいに、この山もみじのように、ほとんどが文句ないほどに完成していながら
一部分が未完成とか改作中という盆栽の評価は、たいへん難しいことなのです

ということで、私の腹見積もりよりも値段は3割安(先制パンチが効いた)
値切りの気まずさもなく、ホクホクとしたいい気分で仕入れたお気に入りの山もみじです


前置きが長くなりました、それでは問題の改作中の樹冠部について

間が抜けた現在の芯の裏側(上の赤点)に5ミリほどの小さな芽があり
これを新しい芯として立て替えれば、びったんこ、理想的です

↓の側面からの画像を参照
赤点が新しい芯です

さらに下の赤点の位置あたりに斜め前方に向かった前枝が欲しい(貫通式の呼び接ぎにより容易に可能)
樹高の三分の一から上あたりには前枝をつけ、姿に奥行きを演出するのが定石ですね

また、二の枝の上にある枝がちょっとうるさい
切り取って空間を作ると、枝順も整い伸び伸びとして見えます


左側面からの画像
白点が現在の芯、赤点が来春以降の新しい芯


3年後の完成予想樹高 9.0センチ

以上のように樹形もいいですが、小枝の先端の繊細さも際立っていますね
ミニサイズの山もみじの小枝作りには、葉性の優秀さも忘れてはならない要素

この山もみじのように、仕立て鉢で培養しながらこれほどにしまった枝先は
いわゆる「極性・ごくしょう」といわれる優れた葉性の証拠です

おまけに、今までの所有者の所見では、このもみじはひょっとすると安部性かもしれない、とのこと
今はハッキリとは確認できませんから、来春に芽が出るまでそっと楽しみに待ちます

楽しみ、楽しみ、気合を入れて作り込むぞ-!

と張り切っている盆栽屋.comであります

2008年11月18日火曜日

五葉松双幹取り木素材

盆栽人にとってはめったに人の持たない稀少な名品と出会うのが夢
その強い衝動が非常な困難や辛抱を乗り越えて、盆栽界に名品を送り出しているのですね

今回紹介するのは、取り木による10cm以下のミニサイズの五葉松
まさに辛抱の賜物といえましょう

ご存知のように、黒松や赤松、真柏や杜松など他の松柏類に比べて
五葉松は追い込みの難しい樹種ですね

そのうえ成長も遅いなどの理由から
人気抜群の樹種でありながら、10cm以下のミニサイズは極端に品薄です


私の親しい友人(業者)が5年前、実生五葉松に取り木をかけました
雑木類に施す環状剥皮ではなく、根の欲しい箇所を針金でやや強めに縛っておき水苔を巻いておく方法です

この方法は環状剥皮と異なり時間はかかりますが
発根しにくい松柏類などに有効です

気長に辛抱してまる2年ほどで発根したしましたが
急いで親木から切り離さず、根数が殖えるのを待ったのです

5年の歳月が経ち、樹形も五葉松らしい温雅な双幹体として立派に成長しました
いよいよ親木から独立の時期がやってきたのです

しかし、ここで慌てて失敗しては5年間の辛抱がフイになってしまいます


現在の樹高(鉢の面から)樹高11×左右17cm
親木から独立した後の樹高は、うれしいことに8.5cmです

やや下方から覗いてみます、主幹の模様がいいですよ
向って右が子幹、左は主幹の一の枝です

白点のあたりが発根の予想される位置
その下は水苔を山盛りにしてあり、無数の根が鉢の中まで伸びています

さて、親木からいきなり切り離してせっかくの樹勢を損なってはいけませんから
来春、この山盛りの水苔を丁寧にすべて取り除きます(ピンセット)

そして、鉢の上にビニール網(鉢底用)で土手を築き
赤玉土と砂の混合用土を入れます

そのまま来年1年間はしっかりと根作りに励み
再来年の春に親木から切り離し、そのときにほんとうの独立をするわけです

に時間をかけて慎重にやれば、樹勢を損なうことなく
独立後も順調な生育をみせるでしょう


足元の拡大図

葉の炭酸同化作用で作られて形成層を伝わって根に蓄えられる栄養分は
針金でせき止められて発根につながるのです

また、せき止められた針金の上の部分はごらんのように太って
盆栽としての理想的な立ち上がりとなります


(×)針金の縛り方
悪い例、一重だと上下がつながってしまうので二重に撒いた場合
一箇所で締めると隙間が空きやすく、圧力が一定にならない


(○)針金の縛り方
良い例、二本の針金を左右から締めると
隙間が空きにくく、圧力が一定になる

こんな小さな工夫も取り木成功へ道につながります
参考のために

では

2008年11月14日金曜日

作る・出猩々 

葉を落とせる時期まで、うずうずしながらやっと我慢をしてきた出猩々
裸にしてみると、6/19のつれづれ草でご紹介したときより、徒長させた芯がずいぶん太っています

新しい芽とはいえ、一年でこれだけ太るのだから、ボディー全体もかなり太ってはいるのでしょうが
毎日手元で見ている盆栽は、目が慣れてしまっていて、その成長の度合いには案外気がつかないものですね


20008/11 撮影の正面図


拡大図

枝については後でお話ししますが、過去の姿とみくらべると
ボディーが充実してかなりの重量感が出てきました


芯の部分の拡大図

周囲に新しい胴吹き芽がたくさん見られます
この中からいい位置に吹いたやつを選んで将来の枝として活用していきます


白点が胴吹き芽の位置
こうして眺めると、枝決めにはこまらないほどの胴吹き芽がありますから、一安心

芯は一番上の白点ではなく、二段目の芽を活用します
幹のコケ順はできましたから、来年はもう頭を太らせるための徒長は必要なくなりました

幹の基本が出来上がったということですね
ですから、来春からは枝を徒長させて太らせるという「次の段階」に移るのです

枝のないところには、呼び接ぎなどの整形外科的な方法もあるんですが
あえてそれに頼らず、体力をつけながら胴吹き芽を待ってジワジワと作りこむのは辛抱が要ります

けれど時間をかけて作りこんだ盆栽には
やはりそれなりの風格が与えられることになっているのです

辛抱、辛抱!

では次の段階をお楽しみに

2008年11月8日土曜日

尚古堂型の和鉢

東京浅草の観音様の近くの今戸という古い下町に、関東陶器という老舗の瀬戸物屋さんがありました
当時のご主人は10年ほど前になくなりましたが、おそらく今でもお店はやっていると思います

特別親しくはなかったけれど、同じ日本盆栽協同組合員としての鉢の商いを通じてのおつき合いはしていました
ご主人は盆栽には不案内でしたが、鉢の世界ではあの「舟山」を専門的に扱う店として知られ、商売もなかなか上手でした

私がまだ20代の半ばごろ初めてお店を訪ねたとき、古いお店の奥が作業場のようになっていて
そこで赤玉土の製造をしていたのを、あまりに珍しい光景だったのでよく覚えています

さて今日ご紹介するのは、その関東陶器さんが 発注元となり
昭和30年代から40年代初頭、支邦鉢の名品「尚古堂」に倣って製作発売した大中小の三枚組の一枚

間口16.7×奥行11.8×高さ5.0cmのこの鉢よりも大きなサイズがあった記憶があるので
このサイズは小か中だったと思います

当時から尚古堂型の外縁隅入雲足長方は人気絶大でしたが
この型の和鉢はほかには見ることができなかった

本歌は非常に高価な宝物であり(今でもそうですが)
数も極端に少ないため、手に入れることなど思いもよらないことでした

そんな盆栽界の需要状況を見極めた商売上手の関東陶器さんが
「尚古堂」に倣った「外縁隅入雲足長方鉢」をプロデュースして発売したのです

ですから、人気の尚古堂の代用品としても意味からも非常にタイムリーでしたし
当時の和鉢の優秀性の実証という観点からも画期的なことでありました

ちなみに、「尚古堂型」というのは外縁・隅入・雲足・長方を特徴としていますが
おなじ特徴をもっていても、胴の下部が出っ張った型のは「子林倣古型・しりんぼうこがた」と呼ばれ、しっかりと区別されています



名品「尚古堂型」の和鉢の優秀作品(間口16.7×奥行11.8×高さ5.0cm)

盆栽には持込が大切なように、鉢の世界には使い込みが大切ですね
当時は普及品として製作発売されて鉢が、愛好家による40年以上の使い込みにより、この通り風格十分です

奥深い光沢と輝きを見せる土味には惚れぼれしますね
窯ものの和鉢も捨てたもんじゃない、優秀性を改めて認識させられます

ともかくくどいようですが、ごらんのように鉢は使い込みが大切
普及品として世に出回ったものでも、丁寧な使い込みにより時間をかければ鉢は立派に「出世」することの代表例です



間口と奥行きと高さのバランス、縁の強さ、胴の曲線、雲足の強さ
すべてのポイントにわたり本歌の特徴をみごとに倣っています



縁、胴、雲足の拡大図
尚古堂型特有の隅に僅かな切り込みがあります



鉢裏と雲足のようす



落款は「関東陶製」

みなさんも身の回りを再点検してみてください
長い間使い込んでいるうちに、思いのほかに「出世」している鉢があるかも知れませんよ

では

2008年11月3日月曜日

作る・きんずの芯作り

7/22のつれづれ草でご紹介したきんず
芽の伸びがとまり葉も固まったので、針金を外して成長具ぐあいを検証してみましょう



今年の夏の中盤以後は不順な天候が続いたため、多水多肥をさけて培養をしてきたので
新芽ん伸びや太りは標準以下ですが、気候にあわせた適切な方法だったと思います

さて、現在の画像はここで針金を外した後の全体の姿ですが
針金をかけた芯や枝作りの成果はどうでしょう



針金をかけた結果、枝の基本から次の枝分かれができて、ずいぶんと枝がにぎやかになってきました
来春に各々の枝先を1~3cm残しで切り詰め、出た新芽の先をさらに二又に分岐させます

それにより枝の基本はかなり完成度がたかまります
ということで、枝作りは順調にいっていますね



さて、芯作りですが、昨年の新芽の基点である下の白点と、今年の新芽の基点である白点をご覧下さい
この筋が大切な芯なのです

ところが、二つの白点間の距離が2.0cmとちょっと長いんですねー
理想的には、上の白点が赤点の位置に欲しかった!

つくづく眺めてみても、昨年の新芽の部分が間が抜けて見えちゃう(いわゆる首なが)
あーあ、昨年の新芽を真っ直ぐに伸ばしっ放しにしないで、針金で曲げておけばよかったなー、残念!



見やすいように周りの枝葉を消してみました
ね、みなさん、昨年の新芽の部分が真っ直ぐで下方の幹と違和感がありますよね

せめて白点間の距離が1.0cmなら我慢できますが、2.0cmは長すぎる
これはまさしく、失敗でした

ということで、今後の解決方法はまだ決めていませんが
とにかく現在の芯をこのまま使うわけにはいきません、先々に禍根を残すこと必至

くやしいですが、芯作りはやり直しです

では