2010年7月29日木曜日

水やりのタイミング

まったく長期の天気予報とはあてにならないもの

5月から6月にかけての日本列島は、日照時間が短く各地で豪雨の被害も多く
来るべき夏の気温は平年以下の、いわゆる冷夏と予想されていましたね

ところがいざ本番になってみると酷暑日の連続
盆栽人たちにとっては、例年以上に水やりに神経をとがらせる毎日となっております

言うまでもなく、水やり命のわれわれ盆栽人です
水やりに関することはどんなササイな知識や工夫であっても、いいことはさっそく学んで役に立てるべきですね

さてそこで、水やり方法となると、ついつい不足対策の方に傾きがちなりますが
今日は、反対の水やり過多を予知する簡単な方法を勉強しましょう

なおちなみに、盆栽人がなぜ冬の長期予報よりも、夏のそれを気にするかと言えば
やはり黒松・赤松類の芽切りの時期が関係してくるからですね

冷夏予想となれば、早めに実行し
暑い夏になりそうならば、もちろん遅めにずらすというわけです


数日前の明け方、わずかながらもにわか雨が降りました

朝になって日が昇り盆栽棚に日が当たりはじめ、そろそろいつもの水やりの時間になると
「ねー、おとうさん、水やったほうがいいんじゃない?」、すでにカミサンは腕まくりを始めています

「今朝は水をやらなくていい」と言う私に向かって、「そんなこと言ったって、もう乾いているよ、雨が降ったってちょっぴりだからさ!」
まるで宮本園を背負って立ってるみたいなでかい態度で、うるさく迫ってくるカミサン(かわいげネー)

そんなときには論より証拠、直接的な行動がいちばん説得力があります
黙って一鉢の盆栽を取りあげ、その湿った鉢底を見せ、水分たっぷりの水穴とその奥の用土を見せてやりました



鉢土の表面は乾いていても
未明に降ったわずかな雨の水分は、まだたっぷりと鉢底に痕跡を残しています



さらに追い打ちのもう一鉢



ここにも水分はたっぷりと残っています
これでは水をやる必要はありませんね

まだまだうちのカミサンは一人前にはほど遠い
水やりは一日何回という先入観に支配されているんですね

というわけで、以上のように

1 水の過不足は鉢土の表面だけではわからないことがあるので
2 鉢底や水穴、その奥の鉢土の湿り具合から判断するといい
3 それにより、鉢裏の蟻やナメクジやダンゴムシの発見など、副次的な効能もある

などなど、効果は抜群です

簡単なことですが
みなさんも面倒くさがらずに、ぜひ習慣にしてくださいね

これはうちのカミサンの教育にもさっそく効果があったようで
以来、鉢裏を観察している姿が何度か見られるようになりましたよ(笑)

2010年7月24日土曜日

楓・傷口癒合

昔の山取りを主体とした盆栽とは異なり、育てながら作り上げていくのが主流となった現代の盆栽では
制作過程で避けられないのが、やむを得ず生じる傷口の問題です

傷口は

1 放置するとその傷口から木質部まで腐り込む
2 特に木肌の美しさが鑑賞のポイントとなる雑木類においては、醜い傷口は鑑賞価値を下げる元となる

など、盆栽人にとっては頭の痛い問題です

「この枝は無駄だから切りたいね」
「いやいや、切らない方がいいよ、大きな傷ができちゃうから」

こんな会話はしょっちゅうですし
自分の心の中でも葛藤をしばしば経験しているのが盆栽人です

後になって、やっぱり切らなきゃよかった、とか
思い切ってあの時外しておいてよかった、などなど、この傷口の問題は盆栽人にとって永遠のテーマでしょう

さて今日は、あの時外しておいてよかった
そちらの嬉しい例をご紹介しましょう


現在の姿 楓 樹髙8.0㎝


昨年の後ろ姿

正面から見た姿はまことにいいのですが
裏枝が太りすぎていて、例えれば、背中に何かを背負っている感じ

ただこれだけ、この1本の枝さえ外せば、かなりまとまりのいい本格模様のミニサイズなのに・・・
でも幹経が3.0㎝なのに、その半分の1.5㎝くらいの傷口ができちゃうんですよ

ずいぶん迷ったんですが、傷が背中であることと樹勢がいいなどの理由で
今年の春に思い切って切りました


多めにたっぷりと塗り込んだカットパスターに、梅雨の頃からひび割れが見られるようになりました
これは、カットパスターの下で、傷口にカルスが形成されている証拠です


7月になってひび割れはますます目立つようになり、中から傷口の肉巻きがはじき出てくる勢いですね
こうなりゃしめたもの、中をのぞいてみましょう


ホホー、すごい勢いで傷口に肉が巻いてきています
測ってみると、当初直径1.5㎝あった大きな傷口が、現在はなんと0.6㎝と半分以下になっています


いちど全てのカットパスターをすっかり取り除きます
次に、まだ肉の巻いていない中心部だけにカットパスターを塗り直す

すでに肉の巻いた箇所に何時までも塗っておくと
盛り上がってコブ状になってしまう恐れがあるからです


状態から見て、今年中にさらに肉巻きは進み、かなり傷は小さくなるでしょう
このままで来春まで待ち、改めて肉巻きの内側をナイフで削り刺激を与えます

刺激を与えられて若返った傷口は、再び肉巻きの速度が速まるものなので
おそらく入梅前には完治の見込みです

では

2010年7月23日金曜日

くちなし正面変更

あえて定義すれば「株立ち」の樹形でしょう
甲羅状に発達した根元が力強く盛り上がって、主幹とそれを囲んだ子幹とがバランスよく立っています

出会ったときから、正面の変更案が頭に浮かんでいましたが
家に帰ってよくよく検討した結果、やっぱり最初の直感に従って実行することになりました


出会ったときの正面

甲羅の形や動きは申し分ありませんが
向かって左に立つ主幹がよく見えません


足元から観察すると、2本の→で示した利き枝が主幹の元あたりにあって
それが前枝なので、主幹の立ち上がりを隠してしまっています


つまり、上から見るとこうなります

上から↓が旧の正面で丸印が芯の部分
2で示した枝が利き枝(前枝)なので上の矢印方向から見た場合、この枝がじゃまになるのです

反対に、下の↑方向からの角度が新正面
1で示した利き枝が主幹のじゃまはしません


側面より見ます

右方向が旧の正面です
主幹をよく見せるためには、赤線のように利き枝(前枝)を切らねばなりません

すると、足元に意外に大きな傷を作ることになる
果たして大きな傷を作ってまで、こちらを正面にするだけのメリットはあるかどうかの損得勘定となりました


反対側をじっくりと観察

1 座元にボリューム感があり傷っけも感じられない
2 右の主幹のやや横下に利き枝もあって、主幹の立ち上がりをじゃましない
3 こちらの角度だと主幹にいい模様が感じられる

などなど、総合点でこちらへ軍配が上がりました


じゃまな不定芽を取り除き、主幹がすっきりと見えるようにしてみました
これなら座元に傷も作らずにすむし、正面変更決定ですね


新しい正面

座元の形もいいし、傷っけも少なく、足元がきれいな感じ
芯に模様があり、横に伸びた枝も利いています


くちなしは丈夫な樹種
多肥多水で育てます

今後は部分的な針金かけと切り込みにより
このような構図を念頭にれて仕上げます

2010年7月20日火曜日

杜松の切り込み

暖かい気候を好む杜松、もちろん、植替えは5月に入ってから行い

深い切り込みなども入梅から夏に向けて行います

それでは、杜松ミニの懸崖を教材にして
追い込み(切り込み)のポイントを勉強しましょう


樹髙7.0㎝の半懸崖式の杜松
5月に植替え、根づくまでのしばらくは新芽を摘まないでおいてあります

約1ヶ月半が過ぎたので、そろそろ追い込みをかけて樹形をしっかり整えましょう
現状では葉ガサが大きすぎて、せっかくの味のある細幹のよさが消されてしまっている


そこで赤線で囲んだ範囲を目安に思い切って輪郭線を縮めます
杜松を切り込む場合、木質化して芽当たりのない箇所から切ると、先端に芽が吹かない恐れがある

しかし、若い小枝の先端は芽当たりがなくともいい時期に切ればだいじょうぶ
少々の葉を残してどんどん切り込みましょう


樹冠部、差し枝、前枝、後ろ枝などが明確になり
細幹のおもしろい幹模様が浮き上がって見えるようになりました

このように、構図を簡明にするのが最大のポイント


剪定のあらかたが終わりましたが、ここにも培養上のポイントがあります
新葉の元に枯れた古葉がこびりついていますね

古葉が風通しや日照の妨げになっています
この古葉をピンセットできれいに取り除いてやること


古葉をきれいに掃除して出来上がりです
これ以後は現在の輪郭線を基本にし、適宜に芽摘みを行い姿を整えていきます


正面の拡大図


枝裏から見ます
きれいになっていますね

日光や風が十分に通って
小枝に芽が吹きやすくなります


約一週間が過ぎました
早くも小枝のあちらこちらに芽当たりが見られます


胴吹き芽の拡大図


胴吹き芽の拡大図

2010年7月9日金曜日

作る・出猩々

作り始めてからこの春で4年目に入った出猩々もみじ
その間にボディーは太って見違えるほどに逞しくなったのですが

節間が伸びやすいという性質に加え、仕立て鉢に入っているせいもあり
せっかくいい位置に吹いた芽も枝として使えないことが多く、なかなか苦労しています

それに正直なところ、最初のうちは欲目でいいところばっかり見えているんですが
4年も経つとアラも見えてきて、あれこれ考え過ぎも出てきます

そこで今年は、春一番の新芽は諦め
葉刈り以後の節間のつまった芽を使う作戦をたてました

まずはここらで一応の骨組みを作ってしまおうという魂胆です
雑木は改作が容易なので、気に入らなければまた改作すればいいんですから

以前の項を参考に


6/13 撮影

春一番の新芽は摘まず、伸しっぱなし


6/13 撮影

普通でいうと葉刈りの時期ですね
まるっきりの葉刈りではありませんが、切り込みを兼ねて葉も減らしました

この画像で見ると、出猩々の新芽の節間が長いのがおわかりですね
人気者の出猩々に名品が少ないのはこのせいなのです


6/23 撮影

フトコロから新芽が吹いてきましたね
これらの芽の中から、節間が短くてしかも元気のいい充実したもの、を枝として使う作戦です


どんなことをしても白線の内部で仕上げたいものです
白点のあたりの芽が動いて欲しいと思っているんですが、どうかな?


7/8 撮影

かなりの数の芽が動いて伸び始めました
葉が固まるのを待って、枝として使う芽と不要な芽とを取捨選択します

ところで、新芽にうどんこ病の出やすい梅雨時
その点に気をつけて培養します

ではこの次をお楽しみに

2010年7月8日木曜日

スクール速報・楓石付・梅もどき

持ち荒らした盆栽の骨格だけを利用し、以前とまったく違った姿への改作の魅力は
いちど味をしめると病みつきになるほどです

第一に、持ち荒らした素材は安価なので
うまくいったときのお得感は応えられませんな(笑)

もちろんうまくいかずに、安物買いのなんとやらになることもしばしばですが
ともく、骨格がしっかりしていて個性のある素材を物色するのが成功の秘訣です

さて、今日は常連のクロちゃんの改作作品をご紹介しましょう
寡黙で飄々とした風貌に似合わず、彼の発想は個性的でなかなか大胆です



私が半ば放り出して、待遇の悪くなった盆栽たちの中にもぐっていた楓の石付(樹高13cm)
3~4年前にクロちゃんが見つけ出した掘り出し物です

大きな傷がなかったのと、石を半ば呑み込んでしまった迫力とおもしろさ
さらに持ち込みの古い木肌の味に目をつけたのでしょう

そして、みごとに復活!
復活というより、再デビューの大ヒットといったほうが当たっています



石を呑み込みかけた根を幹に見立て、左と右に利き枝を配した構図がいいですね
変形の面白さに本格模様木の要素も加わって、堂々たる貫録です

クロちゃんが先週のスクールで葉刈りした姿ですが
赤点で示した二の枝の表情が特に目立っていますね

以前の姿を知っている私だけに
みなさんよりもよけいに、この楓のよさを感じるのでしょうね

枝に力と繊細さが加わるにはもう2~3年かかるでしょうが
クロちゃんならば安心です、きっとそこまでもっていくでしょう、期待しています



後姿



クロちゃんの改作作品・梅もどき(樹高16cm)

この梅もどきの以前の姿は知りませんが、クロちゃんの説明によると
手にれてから木の裏表を取り替えて作りこんだそうです

実物を見ると、根元の座の形や動きはもちろん
幹立ちのバランスまで検証しても、現在の正面が正解のようです

梅もどきという樹種は、根が綿のように軟らかく細いため
古木になるとこまめでていねいな培養が必要になります

この梅もどきも、枝先や木肌にかなりの古色感がにじみ出てきていますが
左の輪郭線のできあがりや、右のハネ出し部分のほぐれが今一息ですね

気合いを入れてがんばってください
梅もどきの株立ちとしては逸品レベルに達しています

みなさんも掘り出し物の素材を見つけ出し
改作にチャレンジしてください、楽しいですよ

2010年7月2日金曜日

姫柿・花芽の分化

花もの・実もの盆栽樹種のほとんどが、今年の中程度に勢いの充実した新枝に花芽を分化させ
来春にその頂芽や側芽に開花し、そして実を成らせます

それが、今ごろ、そうです、ちょうど6月中旬から7月下旬ごろにかけてが
来年の花芽が形成される時期なのです(花芽の分化期)

ですから、春先からぐんぐん伸び続けている新芽を
今頃にやたらめったら切り込んではいけません

もちろん、それを承知しているひとでもあまりに勢いがいいので
この時期には切りたくなるんですが

この時期に新枝を深く切ると、残された芽は分化せずに葉芽となり、またあとに出てくる新芽が充実するころには
残念ながら、すでに花芽の分化期が過ぎてしまっていて、来年用の花芽は形成されないのです

とはいってもそのまま放置したんでは、枝の強弱のバランスが崩れ樹形が乱れてしまうし
伸びすぎた枝葉のためにフトコロに日が入らず風通しもよくないですね

そんなときの対策として
針金による枝伏せをお勧めします

来年の花や実を簡単に諦めることは決してありません
うまい方法があるんです


不定芽が立ち枝になると、勢いがつき過ぎてさらに伸びます
また、水平方向に伸びた枝でも、先端がだんだんに上を向いて勢いがついてきます

そして、バラバラに勝手な方向に伸びた枝が絡まり
図のようにフトコロ芽に日や風が入らなくなってきてしまいます


伸びすぎて乱れた枝先を、赤線の輪郭線あたりから切りたくなりますが
↑で言ったように、今ごろは花芽の分化する時期です


それらを途中で切る(白線)と、新しい芽が吹き、それによって残された芽は花芽が分化せず葉芽(赤線)となって伸び
それらの新枝には花芽が分化せず、来春に花が咲かなくなるのです


そこで、伸びた新枝に針金をかけます
曲げて模様をつけるよりも、気持ちとしては枝を伏せるという感覚でやること

つまり、枝は上向きのままに放置すると、ますます勢いが強くなり樹形を乱し、また花芽の分化を妨げるので
水平に伏せたり方向を変えたりして、勢いを制御しているというわけです

適度に制御され、また日と風通しのよくなった枝の葉の元にある芽は
この時期に花芽の分化が進み来春用の花芽が形成されます


このように枝を伏せ、絡んだ枝の方向を修正し
日光や風の通りをよくします

これによりフトコロ芽に元気がよみがえり
芽も枝も充実してきます


作業完了です


各枝にもまんべんなく日が当たるようになりました

では、いま針金で伏せて伸したままの新枝は何時切ればいいのでしょう?

1 あまりに勢いのいい枝は先端の1~2芽のみ摘み込んでおく
2 中くらいの勢いの枝は切らずにおき、9月中旬に長めに切り戻す
3 本格的な剪定は落葉後から春の芽出し前に行う


ちなみに、姫柿の実成りの状態をよく観察してみましょう

1 昨年の夏ごろまでに、大きな赤点の位置に花芽が形成されていました
2 その芽が今春に伸び、元の1~2芽あたりに花が咲いて実となりました

つまり、大きな赤点の枝を昨年の夏ごろ(花芽の分化期)に切らずにおいたので
花芽の分化が進み、このように開花と実成りの結果となったのです

冒頭の

花もの・実もの盆栽樹種のほとんどが今年の新枝に花芽を分化させ
来春にその頂芽や側芽に開花し、そして実を成らせます

を覚えておいてくださいね

では