2010年9月29日水曜日

捩幹ざくろ8年生

人気樹種のわりに、捩幹ざくろの小品やミニはあまり市場に出回っていません
まして幹が太くてサイズのつまった、いわゆるずんぐりむっくりタイプの力強いミニの優品などは皆無です

大物盆栽においてもそれは同様であり、小品やミニの世界を含めて
捩幹ざくろの盆栽は幼いころからじっくりと時間をかけての気長な培養によってのみ、優れた作品となり得るのです

ですから、畑作りの素材は一見して迫力はあっても、優品に育て上げるのはまず不可能といえるでしょう
そして、その理由は捩幹ざくろ特有の性質にあります

では、捩幹ざくろを仕立てる課程で非常に大切な特性について
ここでしっかり勉強しておきましょう


挿し木から8年間の培養管理による捩幹ざくろの素材
捩幹ざくろの場合、このように幹に傷っけのないことが優品への第一条件となります



そろそろ捩幹特有の捩れが幹や枝に見られるようになりました



捩幹ざくろは幹も枝も、成長とともに左方向(反時計回り)に捩れる性質を持っています
さらに、水吸いの縦方向の独立性が強く、横方向、つまり両隣からの養分の移動がかなり少ないのです

ですから、例えば他の盆栽樹種(もみじ・かえで)などでは、大きな枝を切った場合でも
葉で作られた養分や根から吸い上げた水分などが、上下左右の四方から傷口の治癒のために応援してくれます

しかし、捩幹ざくろの場合は、左右の水吸いに知らんぷりされて援助なし
太い枝を切れば、盆栽の場合ほとんど例外なく、その下方が螺旋状に焼け込んでしまうのです



赤線で太い枝を切った場合、その枝の上部からの養分は期待できず、まして螺旋状につながった根の水揚げは止り
さらに左右両隣からの援助なもなく、幹肌と形成層は図のように螺旋状に焼け落ちてしまいます

以上の理由で、捩幹ざくろは他の樹種のように、幹の切り戻しによる素材作りが不可能なので
ずんぐりむっくり樹形の太幹小品やミニが皆無なのです

ご理解いただけましたか?

とはいえ、捩幹ざくろは盆栽樹種としての美点をたくさん持っていて
昔からの人気樹種であります

美点をあげれば

1 幻想的な感じさえする幹の捩れと古色感あふれる幹肌の美しさ
2 鮮やかな春の芽だしと寒樹の繊細な枝先
3 夏から秋にかけての開花と実成り

ということで、捩幹ざくろの培養の勘所は

1 まず、優れた素材、とくに太い枝を切る必要のないもの、それに出会うこと
2 枝先に勢いをつけ過ぎないよう、徒長枝を早めに取り除き、じっくりと育てる
3 冬期の防寒に気をつけ、培養期には多肥多水で育てる

以上を守れば比較的に丈夫な樹種です
チャレンジしてみて下さい

ではまた

2010年9月17日金曜日

楓甲羅吹き素材作り

春のうちから目につけておいた楓の甲羅吹き素材
選り抜いて5鉢ほど仕入れてきました

太らせるために芯は伸ばし放題にしてあるので、高さは1メートルもあり
鉢穴から外へ伸びた根が鉢底一面に平べったく広がり、棚板に食い込む勢いでした

甲羅吹きは、雑木類、とくに楓によく見られ
ダイナミックな盤状の根と幹立ちの優雅さを同時に味わえるため、人気のある樹形です


背取りという特殊な取り木法によって作られた甲羅吹き素材

勢いよく伸ばし放題にしたので、今年の春見たときよりも根元から幹筋がずいぶん太って見違えるようです
真っ白なきれいな根からも、この楓の健康なようすがわかります


とりあえず長い枝を仮切りして甲羅や根元の掃除をし、樹形の構想を練る
むっくりとボリューム感のある甲羅が魅力ですが、他にもいくつか見どころはあります


わかりやすいように骨格だけの画像にして検証してみよう
ちなみに、主幹の赤点までの高さは5.0㎝、甲羅の間口は7.0㎝、完成予想樹髙は8.0㎝です

1 まず、甲羅の形と動きがいい

2 特に目立つのは、向かって右の主幹の下部の根の動きが抜群です

3 主幹の曲が強くて力がある

4 副幹の動きも主幹にうまく調和している

5 そこで、双幹体の樹形をイメージしてみる、これが妥当な構想でしょう


骨格のイメージ図

1 現在の長すぎる枝のまま過ごし、来春に主要ボディーだけを残して切り込みます

2 主幹はちょうどいいところに芽当たりがありますが、副幹は赤点の位置からは芽が出にくいでしょう
  ですから、おそらくは呼び接ぎによって芯を作ることになるので、呼び接ぎ用の徒長枝を残すことを忘れないように

3 主幹の一の枝は現在の枝を使いますが、その他イメージ図にない裏枝などが必要になれば
  胴吹き芽を待つか、さもなければ呼び接ぎをするかして枝順を作り込んでいきます

2010年9月7日火曜日

異常気象の水やり

みなさん、今年の夏の暑さは、盆栽はおろか人間様にとっても、
まさに生き残りをかけた戦いになりましたね

4,5月ごろからぐずついた天気が続いき梅雨に入るころには
来るべき夏は冷夏との長期天気予報でした

それが一転し酷暑日が続き始めたころのことは
水やりのタイミングとして7月29日のつれづれ草に書きましたね

今振り返って読んでみると、あのころの盆栽屋にはまだ溶融が感じられました
それが証拠に、「水やり過多」を予知する簡単な方法などを語ってります

ところが8月に入ったころ、ますます激しくなる異常な気候に危険を感じた私は
我が園の「水やり助手」として貴重な戦力であるカミサンに厳しく命じました

その要旨は

1 今年に限っては、「乾いたらやる」という水やりの原則は無視してもいいから
  日中の水は乾く前に早め行うようにして、決して切らしてはならない

2 故に、早朝の第1回目の水やりのあと、正午までの午前中に第2回目の水やりを行う
  その際に、まだ乾いていない鉢があっても、気にせずに棚全体にたっぷりとやる

  以上2回の十分な水やりにより、気温が一番高い正午から午後3時ごろの時間帯の水切れを
  最小限で食い止められる

3 第3回目は午後3~4時ごろを目安とし、今度は各鉢の乾き具合をよく観察しながら
  水やりの量を調節する

  また、それ以後、たとえば午後6時ごろに乾いた鉢があったとしても、もう驚くことはない
  散水ホーズは使わずに、如雨露で個別に「拾い水」を少々やるにとどめる

  日が落ちてからの葉水もけっしてやらない

  この第3回目以降の水管理により、夜間でも棚板はさっぱりと乾き
  水やり過多を防ぐことができるぞ

でした



朝の8次ごろ、棚全体にたっぷりと水やり


午前中にもう一回

昨年までは2回目の水やりは午後で、乾いた鉢と乾いていない鉢を見極めながらやりましたが
今年の気候ではそんなゆとりはありませんね、早めの時間帯にひたすらたっぷりです

ただし、↑のNo.3のように、第3回目の水やりでは「乾いたらやる」の原則に立ち返り
1日分の水分の調整をし夜間の過湿を防ぎます

しかし、そうはいっても日中の水やりの時間帯や回数は
お勤めのみなさんには無理なことですね

ですから、自動灌水の時間帯を調節したり、帰宅後の夜間の水やりをやや少なめにし
朝の水やりに重点を移すなど、少しでも意識を変えていくことが大切ですね

というわけで、私の強烈な命令が功を奏したらしく、珍しくもうちのカミサンの意識にも変化が見られ
昨年までのように、夕涼みがてらの夜の「葉水」で棚をびっしょりに濡らすことなどもしなくなり


この厳しい夏にもかかわらず、盆栽の作柄にもかなりのいい効果が見られました

では