2011年12月21日水曜日

苔洲鉢と竹本鉢の知られざる逸話


市川苔洲・辰砂釉外縁六角 間口4.0×奥行き4.0×高さ2.7㎝

竹本鉢と苔洲鉢の両大家の作品には
非常に似通ったものが存在することはよく知られています

実際に、明らかに苔洲の釉薬であるにもかかわらず
形状は竹本にそっくりな鉢などによく出会うものです

とくにミニサイズの豆鉢に多く
初心者の愛好家では見分けに迷うことも多いと思います

そこでみなさんの参考のために、私が実際に耳にしたことのある
信頼性の高いある逸話をご紹介しましょう

竹本隼太は明治25年に45歳で没しており、苔洲は明治30年生まれで、大正の中期頃には東京・下谷(その後は目白)で作陶していたということですが
竹本没後と苔洲の活動開始時期には、少なくとも20年からの空白があります

しかし、苔洲がおもに鉢を焼いたとされるのは目白時代であり
その目白から竹本の窯があったとされる小石川までは、距離にしてわずかに3キロくらいしか離れていません

そこで、私の耳にした逸話になります

昭和の初期の頃、苔洲は当時まだ存続していた竹本家に出入りし
残されていた鉢型や素焼きの未完成鉢などを譲り受けていた

そして、その鉢型を用いて作ったボディーや素焼き段階の鉢に
自分で工夫した釉薬を施して焼いた

ということです

当時は、小品盆栽が現代ほどに一般に流布していたわけではなく
一部の好事家でひっそりと楽しまれていた時代で、万事ゆるやかなのんびりしていたのでしょう

それらの作品は、真贋などはまったく問題にされず
苔洲鉢としてすんなりと世間に受け入れられたそうです

もちろん、当時すでに作家として独自の世界を築き上げ、一家を成していた苔洲に
悪意などあろうはずはありません

その技、神域に至る、といわれた竹本への
強いあこがれや尊崇の気持ちがなさしめたのでありましょう

また、そうして生まれた作品が現代においても
竹本鉢としてではなく、苔洲鉢として存在していることは間違いありません

主に鉢の鑑定では、作風、釉薬、土目の三つが決めてとなりますが
同じ型を使ったボディーであっても、最終的に施釉して焼き上げた作者の作品であるのは当然です

研究の進んだ現代盆栽界においては、苔洲の釉薬と胎土の特徴は
竹本鉢のそれとはしっかりと区別認識されていますから、ご安心下さい

この逸話は、苔洲と親しい間柄であった、竹本家にも同行したこともあるという
当時まだ若かったある盆栽師が、子孫に語り継いだものです

その子孫から直接私が聞いたんですよ
信憑性は高いでしょ

冒頭にご紹介した苔洲の辰砂の六角鉢も、竹本鉢にも散見する形ですが
土目と辰砂釉との特徴から、苔州の作品であることは一目瞭然ですね

では

2011年12月1日木曜日

けやき六年生はまだ若造

2007年の春に手がけ始めたけやき二年生実生苗が
早いもので、もう六年生になりました

作柄はその年の気候やちょっとした心遣いの良し悪しが
毎年かなりの差になって生育に現われます

しょうじき、昨年はひどい猛暑日が長く続いたせいもあり、あまり成績はよくなかったようですが
今年は盆栽フリースクールのみなさんの熱意に引っ張られ、私もかなりがんばりました

今年の冬までの生育の記録は、こちらこちらで見られますよ

いかがですか?
赤いラベルの「2」が↓の現在のけやき六年生の画像です

その時々には目立ちませんが、こうやって以前の姿を振り返ってみると、すごいものですね
自分ながらその成長ぶりには驚かされます

みなさんも、自分の子供が6歳ほどに成長したころに
生まれた時の赤ちゃんの写真を見ながら、よくぞ成長してくれたと改めて感激したおぼえがおありでしょう

それとまったく同じような感覚ですね

あのひ弱で楊枝ほどの太さしかなかった苗が
4年間で足元の幹径が1.0㎝にも太り、ご覧のような大木然とした姿になれるんですよ


根張りの発達につれて、裾をひいた足元に力強さが感じられるようになってきました
枝分かれも素直で、梢の先端まで柔らかくなってきています

ですが、ここで安心して気を抜いてはいけません
これからあと3~4年間、つまり10年生くらいまでが基礎作りの最終コースです

もういちど気合いを入れ直して
最後の調教にかかります


まだ枝に柔軟性が残っていますから、幼い苗のときと同じように
まとめてギューと何度もにぎりしめて枝分かれを矯正します


中心にまとまりすぎた場合などは、各枝の広がりぐあいをバランスよく調整します


枝分かれの骨格が上向きに矯正されたため、立ち姿に勢いが出ましたね
また、枝全体を上向きすれば、さらに枝先の若返りの効果もあります

未完成(10年生以内)の場合は、枝先が下垂してくると
老木感は表現できますが、樹勢の面でマイナスになりますから、たまに矯正してあげましょう


けやき六年生 樹髙13.5㎝ 足元の幹径約1.0㎝

枝の先端に芽数が多く集中している箇所、強い枝やゴツイ箇所など
ていねいに見分けて剪定して整えます

何時まで仕立鉢に入れておくの?

そうですね、けやきの六年生はまだ若造ですね
あと3~4年くらいはこのままで育てたいですね

十年生くらいになれば基礎が十分に出来上りますから
似合った化粧鉢に入れて老木、大木の趣を重視する段階になりますね

それでは